開業立地の考え方

2022年12月16日 (金)

コラムテーマ:
開業

今回は歯科医院を新規開業するにあたっての立地や物件に対する考え方を整理していきます。

まず大前提として歯科医院という業態を営むにあたっての立地はとても重要です。飲食店などと同様にお客さん(患者)に来店(来院)頂いて実サービスを提供することで売上がたつという性質上、視認性が良くて認知度向上に役立つ立地が有利ですし、何回も通ってもらうことを念頭におくとアクセスの良し悪しも大きく作用します。合わせて、一度開業してしまうと少なくとも5年、一般的に10年はその場で続けてから移転することとなるため、重要な選択と言えます。

これから立地選定をして開業準備を進めていく方は必ず参考にしていただきたいと思います。

◆開業立地の考え方

まず初めに立地といっても様々ですので、下記のように分類して考えていきます。
1)都心部
A)繁華街
B)住宅街
2) 地方都市
A)人口密集地
B)人口過疎地

1-A(都市部の繁華街)はターミナル駅とも言い換えることができ、複数の路線乗り換えが可能な大きな商業ビルや飲食店も多いようなエリアを指します。1-B(都市部の住宅街)は駅から少し離れるとマンションや戸建てが立ち並ぶような人々が暮らすエリアを指します。最寄り駅に複数路線の乗り換えが可能であっても2~3路線程度でしょう。この2エリアを最寄り駅で比較すると乗降者数に違いが出ますし、東京都23区内であれば新宿や新橋や品川といったオフィス街とも隣接したエリアと解釈していただけます。
2-A(地方都市の人口密集地)は市町村人口30万人を目安とした街か否かで分類できますので、30万人に満たない人口の市町村にあれば2-B(地方都市の人口過疎地)という解釈といたします。

これら分類をしても、それぞれに位置しながら最寄り駅までの距離は様々だと思います。一般的に徒歩10分を超えると遠さを感じるものであり、駅前までバスや自転車を利用する人にとっては通過点となってしまいますので、徒歩10分以内か否かでも1つの境界線があると理解してください。

そのうえで、徒歩10分以内の駅前立地を選ぶべきであることは1-A・1-B・2-Aで共通に言えることです。2-Bに関してだけは、車での移動を前提とする生活圏であるエリアという特長を踏まえて、クルマ通りの多いロードサイド立地を選ぶできでしょう。

立地を考えるうえで、駅前を優先順位高く検討していくとなると多くの場合は土地を購入して新規建設をするのではなく、元からあるテナントに入居するカタチでの開業となりますが、この条件次第では土地購入による資産化よりも多くのメリットが出てきますので、あまり先入観なく優位性の高い立地で開業を実現させることを考えていくべきでしょう。

◆テナント賃料の妥当金額はいくか?

テナントに入居するカタチでの開業で一番気になるのはそこの賃料だと思います。「坪単価を〇〇万円までにすべき」や「月の賃料合計を〇〇万円以内にすべき」といった断片的な話が横行し、正しい知識や判断根拠を持っていらっしゃる方がとても少ないと思いますので、ご自身でピックアップした候補物件に照らし合わせて考えてみていただきたいところです。

まず前提として、坪単価をいくらにまで抑えるべきといった考え方はありません。これは良い立地や築年数の浅いビルテナントである以上、貸主側が上げてくるからです。貸主の目線に立てば当たり前の論理であり、保有する物件が良い条件を兼ね備えているのに周辺の相場と同額で貸し出すわけがないのです。一般人の住まい選びに例えても同じで、駅チカや南向きや築年数浅などの条件により月々の賃料に差が出ると思います。またオートロックや2階以上や宅配BOXといった女性や1人暮らしに人気の条件があればさらに賃料に跳ね返るはずです。
従って、坪単価の上限を定めてしまうと物件選びの可能性を極端に狭めてしまうのです。

次に月々の賃料総額ですがこれも上限を決めるのはやめた方がいいでしょう。理由は、総額を決めるというのは坪単価が少々高めなら狭い物件しか選べなくなるからです。

すべき考え方というのは、チェアの設置可能台数からみた生産性が高まった段階での売上の10~5%程度に収まる賃料かどうかです。

とすると、チェアあたりいくらの売上を上げることができるのかが気になると思います。
それは単月の売上にて、最低でも200万円/チェアであり、着実なマーケティングを実施することで300万円/チェアまでは伸長させていくことが可能と言えます。

チェア4台ですと、最低でも800万円/月で、高い生産性の状態で1,200万円/月
チェア6台ですと、最低でも1,200万円/月で、高い生産性の状態で1,800万円/月
と概算にて算出できます。

上記をもとにテナント賃料を計算すると、チェア4台設置可能な広さで120万円/月までは10%と許容範囲となりますし、チェア6台設置が可能であれば180万円/月までも同様です。
もちろん、あくまでマーケティング施策をしっかり講じたうえで順調に推移した結果ではあります。が、テナント賃料をむやみに安価におさめようとして中途半端な立地や広さを選んでしまう。その結果、生産性を高めることができないのであれば、坪単価が高くても駅前等の一等立地を押さえて戦略的な事業展開を行うほうが理にかなっていると言えるのです。

つまりは、歯科業界でよく言われる「賃料100万円を超えると経営が厳しくなる」といった考え方には全くもって無根拠であり、可能性を狭めてしまうということがお分かりいただけると思います。

◆具体的な物件選定のポイント

物件の選ぶうえでのポイントですが、物件によって条件の良し悪しがあるのはもちろん、立地や広さや賃料も違います。
特に月々の固定費となる賃料に対する判断は先述の通りですので、事業計画(目標)に対して折り合う賃料である前提で、比較検討するうえでのポイントを整理してまいります。

それは「拡大の余地」という観点です。

例えば、テナントと一口にいってもそのビルのフロアには1件しかテナントが存在しない場合もありますし、大小あれど商業テナントであればフロア内に複数テナントが入る場合もあります。複数テナントが共存する場合には、借りる予定のテナントの隣に位置する区画も将来的に借りて繋げることができるかもしれません。これは紛れもない「拡大の余地」と言えます。

また、近くにワンルームマンションがある場合には、開業当初は院内に設けるスタッフルームや歯科医師のための医局スペースを院外のマンションの一室に移すことができかもしれません。院内のスタッフルームなりには予め配管を通した設計としておくことで将来的にチェア設置をして診療スペースへ変換することができるでしょうから、これも「拡大の余地」と言えます。

もちろん開業当時から診療スペースを最大に設計しチェアを設置することも戦略上は考えられますが、院外に設けるスペースの賃料も節約するという考え方のもとであれば、医院のチェア設定を何段階かに分けて計画しておくことができます。

集患マーケティングを施して患者を診ていない現状では、チェアが6台以上ある医院を切り盛りしているイメージがつかないかもしれません。しかしながら、船井総研がサポートしている歯科医院では、マーケティンが好調に作用し業績が向上していく中で、必ずといっていいほどチェアを増やしたいが増やす余地がないといった“ボトルネック”を感じる経営者が多いのです。

逆説的に言いますと、開業時やその立地(テナント)を選び決めた段階では、そこまでの事業構想を持つことができていなかったということなわけです。
先々、独立開業を考えている先生の大半はスモールスタートという先入観を持っているでしょうし、チェアを最大まで設置しても5台程度までの想像しかしていないでしょう。

あえて伝えたいのは、大きな金額の融資を受けてまで独立開業をするのにも関わらず、3年先・5年先といった中期的な事業構想を持たずに成り行きで医院経営をするのは背負わなくてよいリスクを持つということです。

「大成功しなければ融資金額が大きい分不安がある」というのは本質的なリスクではありません。一定額以上の融資を受ける以上、業績拡大し事業を成功に導くうえでの阻害要素を含ませるほうがハイリスクなのです。

事実、収入面を考慮すると独立開業をせずに待遇の良い勤務医(分院長含む)でいることのメリットが大きい場合もあります。開業すべきか否かのキャリア形成に関する話題はまた別ブログにて書いてまいりたいと思います。

【執筆者 眞野泰一】

【告知】1月8日、9日にパシフィコ横浜で行われる「横浜デンタルショー」に船井総研新規開業ユニットも出展いたします!
当日は新規開業・分院開業を検討の先生向けに開業地の”無料”シミュレーションを実施いたしますので、ぜひブースの足をお運び下さい!

◾️この記事を書いたコンサルタント

◾️監修コンサルタント

歯科・治療院・エステ支援部
マネージングディレクター

松谷 直樹

2000年株式会社船井総合研究所入社。2004年より歯科コンサルティングに携わる。
開業クリニックから日本有数規模の医療法人グループまでコンサルティングを行っている。コンサルティングのモットーは患者様が「この医院を選んでよかった」と思っていただけるような歯科医院づくり。長期にわたるコンサルティング契約先が多く、15年以上契約している歯科医院もある。
歯科医師会、各種スタディグループ、各種歯科企業での講演実績多数。ビジネス雑誌プレジデント誌における歯科特集への寄稿、デンタルダイヤモンド誌での連載実績、クオキャリア、Ciメディカル、FEED等の各種歯科企業発行機関紙への寄稿実績あり。

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